会社の株式を役員のモチベーションアップのために、役員に対して一定数譲渡したい、とのご相談を受けました。
譲渡の動機がこのような内容ですので、相続や退職が起きたときには会社側が株式を取り上げたいとのご希望。
次のような点が疑問点として浮かびあがりました。

1、定款で相続人からの取得規定を設ける際に、取得金額を定めておくことはできるか。
2、会社と株主の合意で退職時の株式の取得を合意しておくことはできるか

1については、葉玉先生のブログにヒントがありました。
会社法であそぼ 2007年3月 4日 (日)の記事のコメント欄です。
Q16
会社と個別の株主(被相続人)との間で生前に、「相続が発生した場合は1株50万円で会社は被相続人が所有していた株式を取得できる」旨の契約書を締結することは、会社法177条(売買価格の決定)との関係で可能でしょうか?177条では売買価格は相続人との協議または裁判所への価格決定の申し立ての手続きが規定されていますが、上記の契約がある場合には、被相続人が締結した契約価格が優先するという考え方でよろしいのでしょうか?それとも相続人はその価格(50万円)は無効との立場をとることができるのでしょうか?
投稿 KIRABO | 2007年3月 2日 (金) 18時34分
A16
契約をすることはできるでしょうが、協議が優先しますので、その契約は、あまり意味はないですね。

契約・合意してもいいけど、条文が優先するよ!との見解のようです。

2、については日本経済新聞株主権確認請求訴訟事件が参考になると思います。
 
 日本経済新聞の従業員持株会においては、株主が「退職」や「死亡」により保有資格を失ったときは、持株会が額面額である1株100円で買い戻す譲渡合意が存在していたが、原告は当該持株会との譲渡合意に従う旨の合意をして日本経済新聞の株式を1株100円で譲り受けたにも拘わらず、持株会との譲渡合意に違反し、日本経済新聞株式を1株1000円で第三者に譲渡した。
 持株会は上記合意に従い原告の株式を取得したものである。
 原告らは、これに対し、株主権確認の訴えを提起し、当該訴訟の中で上記持株会との譲渡合意の有効性が争われた。
 最高裁は、持株会との譲渡合意は会社法107条及び1127条の規定に反せず、公序良俗にも反しないとして有効と判断した。判断要素としては下記のような事項が挙げられている。
  (1)非公開会社である当該会社の株式にはもともと市場性がなく、上記株式譲渡ルールにおいては、従業員が持株会から株式を取得する際の価格も額面額とされていた(時価算定の困難性)。
  (2)当該従業員は、上記株式譲渡ルールの内容を認識した上、自由意思により持株会から額面額で株式を買い受けた(従業員の事前の了解)。
  (3)日本経済新聞が、多額の利益を計上しながら特段の事情もないのに一切配当を行うことなくこれをすべて会社内部に留保していたというような事情はない(比較的高率の剰余金配当)。

 
 なんか、新聞社って変なひとが多そうという偏見を助長するような内容です。
 裁判所としては「いや、持株会やんけ・・・」という判断。ただし、判例の射程が持株会ではなく、会社と株主の合意まで含むのか、剰余金配当の割合をどのように考えるのかによっては反対の判断となることも考えられます。

 一番安全なのは種類株式として取得条項付株式を発行してこれを役員等に渡すことでしょうが、いかんせん種類株式の発行は手間がかかります。
 会社登記の中では司法書士のコストも高い部類に入りますので、これと上述の合意のリスクの天秤になるでしょう。