要注意!公認会計士・税理士の登記申請代理の可否
公認会計士と税理士が設立登記申請の代理をしているようなホームページをよく見かけますが、そもそも登記申請代理権限があるのでしょうか。順番に考察してみたいと思います。
公認会計士の登記申請代理について
公認会計士が商業登記を業として代理することができるかについては、下記通達を根拠にこれを可とする考えの方が多いように思います。
(なお、計理士は現在の公認会計士。計理士法(1927年)に基づき会計上の検査・調査・鑑定・証明等を業とした者。1948年公認会計士に改められ,同法は廃止。)
昭和25年 登記先例・通達・回答
計理士又は公認会計士、会計士補の登記申請書類の作成及び申請代理について(昭和25年7月6日民事甲第1867号民事局長回答)
計理士又は公認会計士、会計士補の登記申請書類の作成及び申請代理について計理士又は公認会計士、会計士補が会社その他法人の設立を委嘱された場合その附随行為として登記申請書類(定款、株式申込書、引受書、創立総会議事録等の添付書類を含む)の作成及び申請代理を為すことは、司法書士法(昭二五、五、二二法律第一九七号)第十九条の正当の業務に付随して行う場合に該当し差支えないと考えられますが、いささか疑義がありますので御回示願いたく照会いたします。
回答
照会に係る標記の件は、貴見の通り積極に解して差し支えない。
通達のリンクです。
しかしながら、この通達のそもそもの前提となっている「正当の業務に付随して行う場合」であれば登記代理ができるという文言は現行の司法書士法では削除されています。
参考までに、新旧の条文を挙げておきます。
司法書士法(旧)
昭和25年5月22日法律第197号(昭和25年7月1日施行版)
(非司法書士の取締)
第十九条 司法書士でない者は、第一条に規定する業務を行つてはならない。但し、他の法律に別段の定がある場合又は正当の業務に附随して行う場合は、この限りでない。
司法書士法 (現)
第73条(非司法書士等の取締り)
司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。)は、第3条第1項第1号から第5号までに規定する業務を行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
日本公認会計士協会の見解では「代理可」、法務省民事局の見解は「代理不可」のようです、通達が現行司法書士法の「他の法律に別段の定め」に当たらない以上、「代理不可」となると考えられます(R1.10.15コメントを受け訂正)。立場的にはそうなるのでしょうが・・・これに対し、個人的な見解となりますが、民事局見解は根拠となっている法律が無くなっているので「代理不可」となるように思われます(以上はあくまで個人的見解です)。(R1.10.20コメントを受け再訂正)
税理士の登記申請代理について
なお、税理士については、上記の先例を踏まえて、つぎの先例があります。
税理士が登記申請書類の作成及び申請代理の可否について(昭和35年3月28日付民事甲第734号民事局長電報回答)
税理士が登記申請書類の作成及び申請代理の可否について
計理士または公認会計士が会社その他法人の設立を委嘱された場合、その附随行為として登記申請書額の作成及び申請代理をなすことができるが、税理士についてはこのような設立及び附随行為はできないと思料いたしますところ、いささか疑義が生じましたので至急電信にて回報下さるよう照会します。
回答
昭和三十四年十二月十一日付電報番号第四九七号で問合せの件、貴見のとおりと考える。
税理士については登記申請代理はできない、との見解です。
こちらはズバリですね。
ちなみに、逮捕された事例もあります。
【元税理士逮捕 無資格で会社登記容疑】
「200件ほどやった」
神奈川、千葉両県警と警視庁の合同捜査本部は1日、東京都品川区南大井、元税理士で会社員若佐稔容疑者(76)を司法書士法違反容疑で逮捕した。
発表によると、若佐容疑者は2009年10月~10年7月、司法書士の資格がないのに、韓国人の男女4人がそれぞれ代表取締役に就いている会社4社の本社移転などの登記申請手続きを、横浜地方法務局などで行った疑い。うち3社は活動実態がなかったという。
若佐容疑者は調べに対し、「(移転や設立登記を)15年くらい前から200件ほどやった」と話し、1件につき2万~10万円程度の報酬を得ていたという。
同本部は、若佐容疑者が、登記によって「投資・経営」目的の在留資格を得て日本に長期滞在しようとする韓国人から依頼され、手続きを行っていたとみて調べている。
一方、同本部は1日、司法書士法違反容疑で逮捕、起訴された行政書士伊東秀樹被告(52)(東京都墨田区京島)を電磁的公正証書原本不実記録・同供用容疑で横浜地検に追送検した。
県警幹部によると、伊東被告は2009年9月、資格がないのに、韓国人の女(26)を代表取締役とする会社の設立登記の手続きを横浜地方法務局横須賀支局で行った疑い。
調べに対し、伊東被告は会社の設立、移転登記について「2006年1月~11年5月の間に約400件やった」と供述しているといい、同本部は伊東被告が計約8200万円の報酬を得ていたとみて調べている。
(2012年3月2日 読売新聞)
上記の一連の解釈から、私は公認会計士の登記申請手続の代理は現行法上は認められていないと解します。
公認会計士や行政書士は商業登記の勉強はしていません。司法書士は試験において嫌というほど商業登記を勉強します。
会社設立登記は定型的な業務で難易度が高くないため、他の士業にも開放すべきであるという意見もありますが、会社設立登記がかんたんというのは深く勉強をしていないから言えてしまう意見ではないでしょうか。
いくらこういったことを書いても肝心の司法書士自身が政治活動に無関心ですからね。
自業自得ではないでしょうか(当方司法書士)
政治連盟にお金を払わない人が大半らしいではないですか。
キワキワ様
コメントありがとうございます。
実はこの記事はそこそこアクセスのある記事で、年間で1500回のアクセスがあります。
マイナーな当ブログの中では人気の記事です。
当方の考えですが、商業登記法は司法書士以外には扱えないと考えています。
こちらが税務の分野にタッチしないのと同様、賢明な他士業は恐くて触れないはずなのですが。
政治活動も重要ですが、同じくらい司法書士が商業登記の専門知識を深める努力も必要であると考えます。
ブログの整理ありがとうございます。
当方、公認会計士ですが、先日法務省民事局に問い合わせたところ、上記通達はまだ有効であり、設立登記可能との見解をいただきました。きちんとメールでの回答を頂いております。
法務省民事局の「不可」という意見は、いつご確認させていただいたものでしょうか?
ご参考までに教えていただけると大変助かります。
スラック様
コメントありがとうございます。
ブログ内で「法務省民事局の見解は「代理不可」のようです」と記載をしたのは、通達が根拠としている「司法書士法(昭二五、五、二二法律第一九七号)第十九条の正当の業務」がすでに存在をしていないため、そのような見解になるであろうという意味合いです。ご指摘いただき、紛らわしいと思いましたので、訂正を入れさせていただきます。
また、法務省民事局から通達が有効であり、登記申請可能というメール回答があったとのことですが、差し支えなければ、引用やどの部署からの回答かを開示していただけないでしょうか。
私としては、現行の司法書士法の「ただし、他の法律に別段の定めがある場合」の「法律」、通達がそもそも含まないため、通達が有効であったとしても、この通達をもって登記申請代理はできないのではないかと考えていますので、民事局からのメール回答(?)があったとすれば、是非参考としたいです。コメント欄が難しい場合には、お問合せから送信していただけるとありがたいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
いやいや、民事局の見解を、~とあなたが個人的に考えるなんて、あいまいなこと書くのやめていただけませんか?
民事局の見解を、きちんとご確認されたらどうですか?
あと公認会計士は、論文式試験で、いやというほど会社法を勉強し、株式会社の作り方を勉強します。会社法は、公認会計士のほうが詳しいのでは?税理士は、全く勉強しませんが。
登記法も、設立に関する部分はきちんと触れますよ。
公認会計士が登記法の素人であり、頼むと危険ともとらえられるような発信はやめていただけませんか?
ご出身法務局民事局にご確認ください。
メールでも、電話でもきけるのでは?
仮に公認会計士、設立登記可であれば、改めてください。
コメントありがとうございます。
まず、そもそもの前提ですが、このブログは私の個人的なブログで個人的な見解を記載しているだけなので、何らの法的効力もありません。
このブログは何かの権限を肯定または否定する効力がないということです(当然ですが)。
個人的な見解として、件の通達は根拠としている司法書士法が改正されているので、通達自体は有効であったとしても、実質的に内容の無いものとなっているのではないかということを記載しています。前回のブログ改定では理解が難しかったようなので、今回は再改定し、さらに平易な記載としておきました。
前々回のコメントで民事局から登記申請権限を認めたメール(?)があるとおっしゃっていたので、是非そのメールを公開していただけないでしょうか。
その資料をいただいて、確実なものであると認められれば、私の誤りですので、もちろん即座に訂正させていただきます。
なお、私は民事局の出身ではないので、電話やメールで気軽に聞けるような立場にはありません。
よろしくお願いします。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/091014/kaitou.html
上記、構造特区で行政書士に商業登記の開放を求めたコメントに対し、法務省は
「商業・法人登記手続を代理して行うには,会社法等の民事実体法や,商業登記法,商業登記規則等の手続法令に関する高度な知識及び専門的能力が要求される。
公認会計士の資格の取得に係る試験における出題内容は,会社法,商法といったいわゆる企業法分野の専門性の高いものとなっており,商業・法人登記手続を行わせる上で十分な専門的法律知識を有していると評価することができるが,行政書士については,現在の資格試験の状況を考慮すると,許認可に携わっていること等をもって,これが満たされているとはいえない。」
と回答しています。
コメントありがとうございます。
法務省のこのコメントからは公認会計士の会社設立登記のみならず商業登記全般まで開放しているようにも読めますね。
参考にさせていただきます。またこのように有益な情報があれば是非コメントください。
登記申請を繰り返している公認会計士には、司法書士会から警告書が届いているようですね。
司法書士会が警告書を発しているということは、ガッチリと証拠を掴んでいるはず。
2回目以降は、警告書で済むか否か個人的に気になるところです。
パラリーガル様
コメントありがとうございます。
警告書の話は、私は初耳です。もし本当であるならば、是非警告書の内容を確認してみたいですね。
追加の情報があれば、またコメントをいただけるとありがたいです。
「ブログ内で「法務省民事局の見解は「代理不可」のようです」と記載をしたのは、通達が根拠としている「司法書士法(昭二五、五、二二法律第一九七号)第十九条の正当の業務」がすでに存在をしていないため、そのような見解になるであろうという意味合いです。」
こちらですが、詳解司法書士法(日本加除出版)316ページに「正当の業務に附随して行う場合」の文言の削除の趣旨について解説があります。それによれば「これは、従来における同条の解釈運用を変更する趣旨ではなく、単に同条の解釈上当然の事理として不要の文字を削ったものにすぎないので、正当の業務に附随して業務を行う場合は、改正後も法第19条違反とならない」とあります。
また、公認会計士さんのコメントにあるように法務省自身が「公認会計士の資格の取得に係る試験における出題内容は,会社法,商法といったいわゆる企業法分野の専門性の高いものとなっており,商業・法人登記手続を行わせる上で十分な専門的法律知識を有していると評価することができる」と回答している以上、法務省の見解としては、公認会計士に商業登記全般について申請代理を認めているものと考えられます。
業際問題を研究する者様
コメントありがとうございます。
文献引用もありがとうございました。
有益なコメントで、そのまま公開させていただきます。
解釈上当然のものなので削除したということですが、業際問題の複雑さを考えれば依拠できる明文として残しておく意義があったように思いますね…
追加で文献、資料等あればまたコメントをお願いします。
公認会計士協会(会員のみログイン可)の会員向けお知らせページで下記のようなお知らせがありましたので共有しますね。どのような理屈かわかりませんが、これを読むと設立だけOKとの解釈のようですね。
公認会計士が行う登記申請書類の作成及び申請代理について
2022年10月25日
公認会計士が商業・法人登記について変更登記申請書類の作成及び申請代理など司法書士に独占的に認められた業務を行うことは、会社その他法人の設立を委嘱された場合におけるその附随行為として行う場合を除き、司法書士法に違反する行為となるものと考えられます。会員各位におかれましては、このような法令への違反行為を行うことのなきようご留意ください。
本件に関するご相談は、当協会の調査・相談グループ(rinjisodan@sec.jicpa.or.jp)にご連絡ください。
以 上
すみません。コメントの公開操作を失念しておりました。大変有益な情報をありがとうございます。
公認会計士協会という公認会計士側の組織の見解としては不思議な気もしますが、参考までに公開しておきます。当方は公認会計士協会のページにログインできませんので、もし会計士さんで「そんな記述はないよ」ということであれば、反論のコメントをお願いします。
>公認会計士が行う登記申請書類の作成及び申請代理について
>2022年10月25日
この会計士協会の見解は、確かに会員向けページで閲覧できますね。
いずれにせよ、会計士協会は設立登記以外の法人登記を会計士が行うことは法令違反と考えているようですね。
インターネットでいろいろ調べると、会計士はすべての法人登記OKのようなブログが散見されますが、これは誤った見解みたいですね。
会計士協会は設立以外NG的な見解、法務省は全般OKと読めるような見解となんとも不思議な状況であると思います。
登記法の複雑さを理解されている会計士さんであれば、登記は司法書士に依頼するとは思いますが。