代表取締役の選定を株主総会で行うという定款規定のある会社で代表者の交代があった場合に、登記の添付書面はどうなるのでしょうか。

(例)取締役ABC、代表取締役Aの取締役会非設置会社で、代表取締役の選定は株主総会決議によるという場合

この場合は、代表取締役と取締役の地位が一体(未分化)であるため、辞任者の一方的意思表示で代表取締役の地位のみを辞任することはできません。代表取締役の辞任を株主総会で承認する決議を行うことになります。
このときの株主総会の決議をどうのように解釈するかについては、葉玉先生と内藤先生の質問応答が、「会社法であそぼ」に掲載されています。

<質問3>
 代表取締役の地位のみの辞任について、たとえば、取締役の任期が10年の株式会社であれば、8~9年前に選定された代表取締役が代表取締役の地位のみを辞任したいということもありえますが、そのような場合に、「株主総会の決議を撤回する方法による」というのは、違和感があります。
 したがって、従前どおり株主総会の承認があれば可能と解する方がよいと考えますが、いかがでしょうか。

<回答3>
 「辞任+株主総会の承認」という構成をとるかどうかは、単なる言葉の問題です。
 ①辞任がない場合でも、株主総会の決議で解職・決議の撤回をすることは可能です。
 ②辞任をしても、株主総会が承認しなければ、辞任することはできません。
この2つを考えれば、実は、代表取締役が辞任するかどうかは、代表取締役の地位を失うことについて、何の影響力もなく、株主総会が一方的に決めているということがわかっていただけるはずです。
 形式として「辞任の承認」の決議をすることは可能だと思いますが、要するにそれは、法的には「解職」「退任」の決議をしているだけだと思います(決議内容によって、登記原因は変わる可能性がありますが)。

葉玉先生の回答が弁護士的、内藤先生の質問は内藤先生的でなかなか興味深いやり取りです。

仮に、「辞任の承認」の決議であるとした場合であっても添付書面としては辞任届の添付は要求されていません。
では、辞任届の添付が要求されていないということは、平成27年改正における辞任届への会社実印又は個人実印の押印も求められないことになります、であってるのかな。

ちょうど考えていたら、有限会社ですが、まさにこの登記の依頼が来ました。

辞任届を添付せずに申請してみようと思います。

平成29年6月9日追記~登記が完了してきました

辞任届の添付無し、退任の原因は「辞任」として申請した登記が完了しました。
添付した議事録の文案はこんな感じ。
辞任届を添付したくなるような文章ですが、添付無しで大丈夫です。

第1号議案 代表取締役の地位のみを辞任するにつき承認の件
 議長は,代表取締役●から,平成 年 月 日をもって代表取締役の地位のみを辞任したい旨の申し出があったため,この申し出につき承認願いたい旨を述べ,その可否を議場に諮ったところ,満場一致をもってこれを承認可決した。

取締役の地位の性質に関しては、会社法改正から時間が経過したこともあり、少し下火というか、落ち着いたというところですが、みなさんが曖昧にしたままのような印象がありますね。