所在ではなく、株主がそもそもだれかわからないという場合、これも広義で「所在不明株主」で扱ってよいのでしょうか。
資料等を確認しても株主が誰か不明なときは、会社に当該株式にかかる通知を行う義務が生じないため、通知を行う必要はないはず…(事実上不能)。
下記のような3パターンの対応が考えられます(全部取得条項付株式での対応は面倒なので省略)。
揉める要素がないのであれば株式併合してしまうのが簡単でしょう。
1、 所在不明株主の株式買い取り(198条)
所在不明の株主の株式を会社が買い取ることができる。所在が不明の株主の有する株式のみを取得することが可能であるが、「裁判所の許可」及び「官報による公告」が必要であり、手続きはやや煩雑になる。
(1) 株主に対する通知または催告が5年以上継続して到達しない
(2) 株主が5年以上継続して剰余金の配当を受領しない
(3) 裁判所の許可(市場価格のない場合)
市場価格のない株式については、価格の決定について裁判所の許可が必要となる。
(4) 株式を会社が買い取る場合は取締役若しくは取締役会の決定
(5) 公告及び催告(三か月間の異議申述期間)(198条)
所在だけでなく、株主自体が不明の場合は催告が不要(事実上不可能)。
(6) 財源規制あり(461条1項6号)
対価として交付する金銭の額は分配可能額の範囲内である必要がある。
2、 特別支配株主等による少数株式の取得
特定の株主が株式の90%以上の株式を保有する場合に、他の株主の買い取りが可能となる制度。株主総会の決議が不要。ただし、不明の株主だけでなく、支配株主以外の株主全員に対して取得請求をする必要がある。
(1)特別支配株主から請求があること
特別支配株主とは、対象会社の総株主の議決権の10分の9以上を有する者をいう(179条1項)。
(2)対象となる株式等
株式売渡請求は、対象会社の株主の全員に対して行わなければならない
(法179条第1項本文)。※一部の者への請求はできない。
(3) 手続
① 特別支配株主から対象会社への通知
特別支配株主は、対象会社に対し、売渡株主に当該売渡株式の対価として交付する金額、株式を取得する取得日等を定め、通知する必要ある(法179条の2、同法179条の3)。
② 対象会社による承認
特別支配株主は、株式等売渡請求につき対象会社の承認を得る必要がある。
③ 売渡株主等に対する通知
対象会社は、特別支配株主の株式等売渡請求を承認したときは、取得日の20日前までに、売渡株主に対し、株式等売渡請求を承認した旨、特別支配株主の氏名又は名称及び住所、株式等売渡請求の条件等を通知する(法179条の4第1項第1号)。
④ 事前開示手続
対象会社は、売渡株主等に対する通知の日から、取得日後1年を経過するまでの間、特別支配株主の氏名等や株式等売渡請求の条件等を記載した書面等をその本店に備え置く必要がある(法179条の5)。
⑤ 事後開示手続
対象会社は、取得日後遅滞なく、株式と売渡請求により特別支配株主が取得した売渡株式等の数その他の株式等売渡請求による売渡株式等の取得に関する事項として法務省令で定める事項を記載した書面等を作成し、取得日から1年間、当該書面等をその本店に備え置く必要がある(法179条の10、会社法施行規則33条の8)。
3、 株式の併合
不明株主が有している株式数を超える割合で株式を併合し、不明株主の所有株式を端株とする。不明株主以外の少数株主も併合の対象となる。
(例)10,000株を発行している会社で、Aが9400株、B(不明者)が300株、Cが300株を保有している場合に、940株を1株として併合すると、結果としてAが10株となる。
端数の処理については、BとCの端数を足しても併合後の1株に満たないため、株式の株主からの株式買取請求がなければ切り捨てとなる。
(1)株主総会決議 (180条1項2項・309条2項4号)
株主総会において、以下に掲げる事項を定めなければならない (180条2項)。
① 併合の割合
② 株式併合が効力を生ずる日
③ 種類株式発行会社である場合には、併合する株式の種類
(2)株主に対する通知又は公告
株式会社は、株式の併合の決議をしたときは、株式の併合がその効力を生ずる日の2週間前(端数となる株主がいる場合は20日前)までに、株主に対して、上記(1)の①から③の事項を通知又は公告しなければならない(181条1項2項)。
(3)株券の提出に関する通知及び公告
株券発行会社が株式の併合をする場合には、その効力が生ずる日までに、当該株券発行会社に対し、併合される株式に係る株券を提出しなければならない旨を効力発生日の1か月前までに公告し、かつ、当該株式の株主及び登録株式質権者には、各別に通知しなければならない。