久々に種類株主総会の決議が必要かどうかについて悩むような依頼がありましたので、記事にして思います。

具体的な事例で、実際に登記(東京法務局本局)での登記審査を通過しましたので、ご参考までに。
2種類の株式(普通種類株式とA種類株式)を発行している種類株式発行会社において、次の登記を検討していました。

1、発行可能株式総数の変更及びA種類株式の発行可能種類株式総数の変更
2、第三者割当によるA種類株式の発行

それでは、図と照らし併せながら1つずつ検討していきましょう。

まずは2、第三者割当によるA種類株式の発行についての検討

2の「第三者割当によるA種類株式の発行」については、以前に検討しており、全体総会と併せて、A種類株式の総会のみで足りることはわかりました。判断過程は次の通りです。

すなわち、199条4項の種類株主総会決議(上図(2)の決議)は、発行する譲渡制限株式の「当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議」であるので、A種類株主の種類株主総会であって、普通種類株式の株主総会は求められません。

また322条項4号の募集株式は株主割当ての場合なので、第三者割当である今回は該当しません。
したがって、2の「第三者割当によるA種類株式の発行」については、全体総会のほかA種類臨時株式総会(上図の(2)の決議)のみで足りることとなります。

次に、1、発行可能株式総数の変更及びA種類株式の発行可能種類株式総数の変更に必要な決議の検討

この検討に際して、ついにというか、いよいよ322条の「ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき」の検討(上図(3))が必要になります。

実質判断なので、諸般の事情を総合考慮して結局よくわからんというこの「おそれ」ですが、通常であれば「よくわからんから念のため決議しておこう」という考えで決議事項に含めるのですが、今回はクライアントからの要望で「決議する事項は必要最低限のものにしたい」との制約があったため、決議の要否を詳細に検討する必要が出てきてしまいました。

まず、A種類株式の発行可能種類株式総数を増加させることは、普通種類株式の種類株主に損害を与えるおそれがあるのか?
結論としては、おそれがあるとの判断をすべきのようです。下記の参考文献中に記載がありましたが、A種類の発行可能種類株式総数が増えることで、全体総会における議決権比率が相対的に低下するおそれを考慮するようです。

次に、A種類株式の発行可能種類株式総数を増加させることは、A種類株式の種類株主すなわち同種類の種類株主にも損害を与えるおそれがあるのか?
これについては剰余金の配当額が減少する可能性が生じることを理由として、おそれがあると判断するようです。

したがって、1、発行可能株式総数の変更及びA種類株式の発行可能種類株式総数の変更には全体総会のほか、上図(3)の決議として、普通種類臨時株式総会とA種類臨時株式総会が必要になります。

結論として必要になる決議は?

結果的には次の通りの株主総会決議が必要となります。

1、全体総会としての臨時株主総会(1、発行可能株式総数の変更及びA種類株式の発行可能種類株式総数の変更と2、第三者割当によるA種類株式の発行)
2、普通種類臨時株式総会(1、発行可能株式総数の変更及びA種類株式の発行可能種類株式総数の変更)
3、A種類臨時株式総会(1、発行可能株式総数の変更及びA種類株式の発行可能種類株式総数の変更と2、第三者割当によるA種類株式の発行)

この会社は取締役会設置会社だったので、割当決議は取締役会で行いました。
今回は判断が必要になりましたが、322条の「おそれ」に関しては、とりあえず決議しておくというのがやはり安全です。

参考文献

株式・種類株式<第2版> (商業登記全書) 単行本 – 2015/9/19
森木田一毅 (著), 岡田高紀 (著), 神﨑満治郎 (編集), 内藤 卓 (編集)

②株式・種類株式<第2版> (【新・会社法実務問題シリーズ】) 単行本 – 2015/7/11
戸嶋浩二 (著), 森・濱田松本法律事務所 (編集)